弓道において「弓返り」は、美しい射を象徴するだけでなく、技術の完成度を示す重要な動作です。「弓道で弓返り」と検索する多くの方が感じているように、弓が90度や180度しか回らない、あるいはうまく270度まで返らないといった悩みは、技術的な仕組みや原理を理解することで解決に近づきます。
この記事では、弓返りの起こる理由や構造上の原理、手の内の関係性を詳しく解説しながら、自然に弓が返る射を目指すための練習法や注意点を紹介します。また、弓返りが矢の飛びに与える影響や、矢が落ちる・的に届かない原因なども取り上げながら、弓返りの必要性とメリットについても具体的に掘り下げます。
弓返りを「どのくらい」で習得できるのかを知りたい方や、正しい角度の目安に迷っている方にとって、実践的かつ理論的な参考になる内容をまとめました。
- 弓返りの原理と仕組みの基本構造
- 手の内が弓返りに与える具体的な影響
- 弓返りの角度(90度・180度・270度)の違いと意味
- 弓返りが的中率や矢の飛びに与える効果とメリット
弓道での弓返りの原理と仕組みを正しく理解しよう
その原理とは?手の内と弓構造の関係

弓返りが起こるのは、弓の構造と射手の手の内の働きによって自然に生じる現象です。強制的に弓を回しているわけではなく、正しい射法に従った結果として起こります。
まず、和弓の構造には「非対称性」があります。弓に弦を張った際、弦は弓の中央ではなくやや右寄りを通ります。この配置は「入木(いれき)」と呼ばれ、矢が弓の右側を通過するための工夫です。これにより、矢を離した瞬間に弦が元の位置に戻ろうとする反動が、弓を時計回りに回転させる力(回転モーメント)として働きます。
一方で、手の内にも重要な役割があります。手の内とは、弓を支える左手の構え方を指します。特に意識すべき点は以下の通りです。
- 天文筋(掌の中央を通る縦の筋)を弓の左外竹にしっかり当てる
- 親指の付け根(角見)で弓の右内竹を押すような形を作る
- 虎口(親指と人差し指の間)を7:3の割合で弓に当てる
このような構えによって、弓を握らなくても自然に支えることができ、離れの瞬間に手の内が回転を妨げず、弓が滑らかに返ります。
この原理を簡単に示すと、以下の通りです。
要素 | 働き |
---|---|
弓の構造(非対称) | 回転力の発生源 |
手の内の形 | 弓の自然な動きを妨げない |
弓手の押し方向 | 弓の回転を助ける |
つまり、弓返りは力で弓をひねる動作ではなく、弓の設計と手の内の整え方により、自然と生じる結果です。この関係を理解せずに回そうとすれば、逆に弓具を傷めたり、悪い癖がついてしまう可能性があります。
仕組みは手の内がカギ
弓返りを正しく起こすには、弓そのものよりも「手の内の使い方」が重要です。どれだけ弓の構造が整っていても、手の内が崩れていると、弓はうまく返りません。
手の内とは、左手で弓を保持する際の手の形・圧力のかけ方を意味します。特にポイントとなるのは、握るのではなく「支える」ことです。以下のような整え方が理想とされています。
- 親指をやや下に向ける「鵜の首」の形を作る
- 中指・薬指・小指の3本を揃え、弓の外竹に軽く添える程度にする
- 虎口を開かず、空洞ができないようにする
- 弓をベタっと押しつけず、皮膚が弓に巻きつくようにフィットさせる
これらを正しく行うと、離れの瞬間に力を抜かずに済み、弓が自然と回転するようになります。逆に、手の内で強く握り込んでしまうと、摩擦が生じて弓の回転を止めてしまい、弓返りが不自然になります。
手の内が正しく整っていない場合に起こる問題には、以下のようなものがあります。
- 弓が90度や180度しか回らない
- 離れの瞬間に手が開いて弓が滑り落ちる(弓返し)
- 手首や肘に負担がかかり、安定した射ができない
このように、弓返りは弓道の中でも「技術の完成度」を映す鏡のような現象です。美しい弓返りを目指すためには、まず手の内を徹底的に見直すことが近道となります。どんな弓を使っていても、正しい手の内がなければ弓返りは成立しません。
角度別比較|90度・180度・270度の違い

弓返りの角度は、射手の技術レベルや手の内の整い方によって異なります。一般的に、回転角度が大きいほど正しい手の内で射てているとされる傾向がありますが、必ずしも角度だけで良否を判断するべきではありません。
以下は、代表的な弓返りの角度とそれぞれの特徴をまとめた比較表です。
弓返り角度 | 特徴 | 想定される射手の状態 |
---|---|---|
約90度 | 弓が回り始めているが止まっている | 握り込みが強く、回転が妨げられている可能性 |
約180度 | 弓が横向きになり、標準的な回転状態 | 手の内がある程度整っている |
約270度 | 弓が腕を越えて裏返るように返る | 手の内・角見が正しく働いている |
90度で止まる場合、弓を強く握ってしまっていたり、角見の働きが弱いことが考えられます。一方で、270度までスムーズに回る場合は、弓の慣性と手の内の一致が取れている状態です。
ただし、無理に角度を大きくしようとするのは推奨されません。特に握りを意図的に緩めて弓を回す「弓返し」は悪癖につながる恐れがあります。
角度は「結果」であり、「目的」ではないという視点を忘れずに、手の内や押しの意識を大切にしましょう。
矢の飛びに与える影響とは?

弓返りは見た目の美しさだけでなく、矢の飛び方にも大きく関係しています。正しい弓返りは、矢勢(やぜい:矢の勢い)と矢所(やどころ:的中の位置)を安定させる要因のひとつです。
弓返りが適切に起こると、以下のような良い影響が生まれます。
- 矢に均一なエネルギーが伝わりやすくなる
- 弦の離れがスムーズになり、矢筋が乱れにくくなる
- 弓にかかる力が分散され、矢が前方に素直に飛ぶ
一方で、弓返りがうまくいかない場合、矢の飛びに次のような悪影響を及ぼすことがあります。
- 矢が垂れて落ちる(矢勢不足)
- 矢が左右にぶれる(矢所不安定)
- 弦が体に触れて音が濁る(離れ不良)
特に「矢が的まで届かない」「矢がぶれる」といった症状がある場合は、手の内の不安定さや握り込み、あるいは弓返りの妨げとなる動作がないかを確認することが重要です。
矢の飛びに不満があるときは、単に狙いや姿勢だけを見直すのではなく、弓返りの状態にも注目すると改善につながることがあります。こう考えると、弓返りは単なる付属動作ではなく、正射必中に向けた基本の一部と言えるでしょう。
弓道での弓返りを習得するための練習とメリット
どのくらいで習得できるのか?

弓返りの習得には個人差がありますが、一般的には正しいフォームが身につくまでに約6か月〜1年ほどかかるとされています。これは、単に手の形を覚えるだけでなく、角見・押し手・離れのすべてが連動する必要があるからです。
初段を目指す頃には自然な弓返りを目指す段階に入りますが、二段以上を視野に入れると、弓返りが自然に出るかどうかが評価に影響するケースもあります。以下は、習得までの目安と内容を簡単にまとめた表です。
経験期間の目安 | 弓返りの習得状態 |
---|---|
1〜3か月 | 手の内の形を覚える段階 |
4〜6か月 | 弓が軽く回り始めることがある |
6か月〜1年 | 弓返りが安定して出始める |
1年以上 | 状況に応じて弓返りを再現できる |
ただし、時間だけではなく「意識の仕方」が大きく影響します。練習の中で角見や天文筋への理解が深まっていない場合、何年経っても弓返りが安定しないこともあります。
一方で、経験が浅くても良い指導者のもとで正しい型を反復できれば、比較的早い段階で自然な弓返りが現れることもあります。大切なのは、弓返りを目的にせず、あくまで「結果」として捉えながら練習を積むことです。
メリットと必要性を知ろう
弓返りには見た目の美しさだけでなく、射技の完成度を高めるという実用的なメリットがあります。正しい弓返りが起きると、手の内・押手・離れが正確に機能している証とされます。
主なメリットは次の3点です。
- 矢勢が安定し、的中率が上がる
- 離れがスムーズになり、体に負担がかからない
- 弓具へのダメージが減る(弓に対する無理な力が入らない)
一方で、弓返りは「しなければならない」動作ではありません。たとえ弓返りが出ていなくても、的中しており、フォームに無理がないのであれば、それ自体は問題とされない場合もあります。
また、無理に弓返りを出そうとすると、次のようなデメリットにつながることがあります。
- 手の内を不自然に崩してしまう
- 握り込みや弓返しなどの癖がつく
- 弓を落としてしまうなど安全面での不安が出る
このように考えると、弓返りは「目的」ではなく、「結果」として現れる動作です。正しい手の内・押し手・引き分けを身につけた上で自然に発生するものとして、過度に意識しすぎずに技術の基盤を固めていくことが大切です。
正しい練習法と注意点

弓返りを正しく身につけるためには、型の理解だけでなく、段階的な練習が欠かせません。弓返りは強制的に回すものではなく、自然に起こる動作であるため、土台となる手の内や姿勢が整っている必要があります。
主な練習法は以下の通りです。
1. 素引き練習で手の内を確認する
弓を引かずに構える素引きでは、角見・手首の角度・押し方向などを確認できます。特に押手に力が入りすぎていないかを重点的にチェックします。
2. 動画撮影でフォームを可視化する
自分の離れと弓の動きを確認するには、スマートフォンなどで撮影し、角度や回転のタイミングを客観的に見るのが効果的です。
3. 軽い弓で反復練習する
初心者の場合は、強弓を避けて軽めの弓で回転の感覚を身につけましょう。弓の戻る力が弱いと、無理に返そうとする癖がつく恐れがあるため、弓力の選定も重要です。
注意すべきポイントもあります。
- 弓返りを目的にしてしまい、弓を意図的にひねる
- 握り込みによって回転が止まる
- 離れで手を開いてしまい、弓が落ちる(弓返し)
これらの動作は一見それらしく見えても、正しい弓返りとは言えません。弓返りはあくまで、正しい射法の「結果」として自然に起きる現象です。そのため、無理に再現しようとするのではなく、手の内や押しの方向性を見直しながら地道に練習を重ねることが必要です。
的中率を上げる方法

弓返りが安定して起こるようになると、矢の飛び方が素直になり、的中精度が向上します。これは、弓返りが離れの際のブレを最小限に抑え、弦の復元力を効率よく矢に伝えるからです。
具体的には、以下のような影響があります。
- 離れの瞬間に弓が自然に回ることで、押手がぶれにくくなる
- 弓手が安定することで、矢がまっすぐ飛びやすくなる
- 手の内のゆるみが減り、的への集中がしやすくなる
たとえば、弓返りが不安定な状態では、弦が体や腕に触れやすくなり、矢が左右にぶれる原因になります。一方で、正しい手の内から生じた弓返りがあると、弦の通り道が安定し、矢がぶれるリスクが低減します。
以下に、弓返りの有無で生じる違いを簡潔にまとめます。
状態 | 的中への影響 |
---|---|
弓返りが自然にある | 押手が安定し、矢筋が整いやすい |
弓返りがない | 弓手に無駄な力が入り、ブレやすい |
弓返りを無理に出す | 手の内が崩れ、的中率が不安定になる |
弓返りを意識しすぎると本来の目的を見失いがちですが、正しい射法の結果として自然に現れるように練習することで、結果的に的中率は向上していきます。技術だけでなく、精神的にも無理のない射ができるようになるため、弓返りは精度向上に貢献する重要な要素と言えます。
弓道での弓返りの基本と習得ポイントまとめ
ここまでの内容をまとめると以下となります。
- 弓返りは弓の構造と手の内の働きによって自然に起こる現象
- 和弓の非対称構造が弓返りの回転力を生む
- 手の内は弓を支える構え方であり、握らずに添えるのが基本
- 天文筋と角見を正しく使うことで弓が滑らかに返る
- 虎口の当て方や指の形が弓返りに大きく影響する
- 弓返りは回転角度で技術の習熟度がわかる目安となる
- 約90度で止まる場合は握り込みや角見不足の可能性がある
- 約180度は標準的で、正しく手の内が機能している状態
- 約270度は手の内と弓の構造が完全に連動している状態
- 弓返りは矢の飛びに影響し、矢勢や矢筋の安定に寄与する
- 弓返りが出ないと矢が垂れる・ぶれるなどの問題が生じやすい
- 習得には半年〜1年ほどが目安だが意識と理解の深さが重要
- 弓返りは結果であり、無理に起こそうとすると逆効果になる
- 正しい弓返りには段階的な練習と反復が不可欠である
- 弓返りが安定すると押手がぶれにくくなり、的中率が向上する
参考文献:~弓道競技~