弓道で安定した射を実現するためには、馬手の動きが極めて重要である。特に引き方やひねり、そして力を抜く意識を正しく理解しなければ、力が入る悪癖に悩まされやすい。馬手離れが不安定になったり、たぐりすぎるとどうなるのかという疑問も、フォームの理解不足から生じやすい。さらに、潰れる動作や手首が曲がるクセ、親指の向きのズレが軌道の乱れに直結する。肘が後ろに流れる問題も、多くの射手が経験する課題である。
この記事では、弓手と馬手の違いや「勝手」と「馬手」の違いも整理しながら、馬手の正しい使い方を詳しく解説する。初心者から上達を目指す射手まで、安定した射形を作るための具体的なポイントを分かりやすく紹介していく。
- 馬手の正しいフォームと引き方を理解できる
- ひねりや力の抜き方による安定した射法を学べる
- 手首の曲がりや肘の位置などのフォームの乱れを改善できる
- 弓手と馬手、「勝手」と「馬手」の用語の違いを把握できる
弓道での馬手の基本を理解し正しいフォームを作る
勝手との違いを正しく理解する

「勝手」と「馬手」という言葉は、弓道を学び始めると必ず出てきます。どちらも弓を引く右手を指しますが、その使われ方には微妙な違いがあります。
まず、勝手とは本来、日本の古語で「右手」という意味を持つ言葉です。弓道に限らず、古武道などでも右手のことを勝手と呼ぶ場面があります。一方で、馬手は弓道特有の用語で、右手をより専門的に表現する言葉です。現代の弓道教本や指導現場では、一般的に「馬手」という表現を使うことが標準になっています。
では、なぜこのような違いが生まれたのでしょうか。これは時代背景によるものです。古い弓術書や流派では勝手という表現が広く使われてきました。しかし、戦後の弓道教本の体系化に伴い、用語の統一が進められ、その中で馬手という呼び方が一般化しました。現在、全日本弓道連盟の教本などでも馬手という用語が採用されています。
もし試験や正式な文書で用語を使うなら、馬手を使う方が適切です。ただし、古い文献や高齢の先生からは勝手という言葉を聞くこともあります。どちらも意味は同じですので、混乱する必要はありません。
このように、勝手と馬手は指している部位は同じでも、使われる文脈や時代によって使い分けられていると理解すると良いでしょう。
弓手との違いを役割から解説

弓道では弓手と馬手がそれぞれ重要な役割を持ちます。両者の働きを正しく理解することは、射の安定と的中率向上に直結します。
弓手とは左手を指し、弓を支えつつ押し出す役割を担います。馬手は右手で、弦を引いて矢を保持し、引き分けを行う手です。この2つの手が適切に機能することで、正しい射形が作られます。
まず弓手の働きについて説明します。弓手は弓を握るのではなく、手の内を使って弓を支えます。矢を的に向かって押し続けることで、弓の張力と矢の直進性が生まれます。弓手の安定が欠けると、矢飛びが乱れたり弓返りがうまくいかなくなったりします。
一方で馬手の役割は弦を引いて弓を開くことです。引き分けから会まで、馬手は力を入れすぎずに引き、離れでは自然に弦から手が外れるように保ちます。力みすぎると離れで暴発や弦のひっかかりが起こりやすくなります。
両者の役割を整理すると以下の通りです。
役割 | 弓手 | 馬手 |
---|---|---|
位置 | 左手 | 右手 |
主な働き | 弓を押し支える | 弦を引く |
意識の重点 | 手の内・角見 | 肘主導・ひねり |
失敗例 | 弓返り不足 | 暴発・手首の力み |
このように、弓手と馬手は別々の動きをしながらも、互いに補い合って射が完成します。どちらか一方だけを意識しすぎると全体のバランスが崩れるため、両方の役割を理解して練習に取り組むことが大切です。
引き方とひねりの正しい関係

馬手を正しく引くには、ひねりの使い方を理解することが不可欠です。ひねりとは、馬手の前腕を内側に軽く回転させ、手の甲が上を向く状態を作る動作を指します。
このひねりによって、弦が弽(ゆがけ)の弦枕に安定して乗り、弦の滑りや矢こぼれを防ぐことができます。ひねりが不足すると、取り懸けが浅くなり、離れの瞬間に弦が乱れて矢の方向が安定しません。逆に、ひねりすぎると手首が極端に曲がり、弦を押さえつける力が生じ、暴発や指先の痛みの原因になります。
ひねりの基本は、取り懸けの段階で親指の付け根が弦を包み込むように当たり、指先は軽く沿える程度の力加減に保つことです。そして、打起しから引き分けに入る間、ひねりの状態は維持し続けます。途中でひねりを強めたり緩めたりしないことが安定した射につながります。
ひねりと引き方の関係を整理すると以下の通りです。
状態 | ひねり不足 | 適切なひねり | ひねり過剰 |
---|---|---|---|
弦の安定 | 不安定 | 安定 | 不自然に圧迫 |
離れの安定 | 矢こぼれ・暴発 | 安定 | 引っかかり・暴発 |
手首の負担 | 小 | 小 | 大 |
このように、ひねりは「適切に保つ」のが重要です。取り懸け時の形を作り、余計な操作を加えず自然に引き続けることを意識しましょう。
力が入る原因と力を抜くコツ

多くの弓道初心者が悩むのが「馬手に力が入る」という問題です。力みは射形を乱し、的中率を下げる大きな要因になります。
馬手に力が入る主な原因は、弦を離す不安や暴発への恐怖心にあります。弦をしっかり保持しようとする意識が強くなり、指や手首、前腕まで無駄に力が入ってしまうのです。特に取り懸け時に中指を強く曲げて弦を握り込む人が多く、これが余計な力みの出発点になります。
このような力みを防ぐには、まず取り懸けの段階で親指を反らせ、中指は弦に軽く添えるだけにします。ギリ粉の摩擦力だけで弦を保持している感覚が理想です。そして、引き分けでは「肘で引く」意識を持ち、手首や指先の力を抜くよう心がけます。肘の動きを友人に軽く触れてもらう補助練習も有効です。
馬手の力み改善ポイントを整理すると以下の通りです。
- 取り懸け:中指は軽く添えるだけ
- 引き分け:肘主導、手首は脱力
- 会:手の甲は天井を向け、余計な操作をしない
- 離れ:意識的に放そうとせず、自然に抜く
いくら力を抜こうとしても、不安があると無意識に力が入ります。そのため、正しい取り懸けの形を先に身につけることが力み防止の土台となります。
潰れる・肘が後ろに流れる原因と防止策

馬手が潰れるとは、引き分けの最中に前腕と上腕の角度が狭まり、腕全体が体の内側に寄りすぎてしまう状態を指します。一方、肘が後ろに流れるとは、肘先が背中側へ大きく回りすぎて、正しい矢筋から外れてしまう現象です。どちらも射形を大きく乱し、的中率の低下を招きます。
これらの原因は共通しています。主に、手先で弦を引こうとする意識が強すぎることにあります。弦をしっかり保持しようとして腕を内側に寄せたり、肘を背中に引き込もうとする力が働くのです。また、弓手よりも馬手が先に引きすぎる「馬手先行」も原因となります。
防止するためには、引き分けを「肘で導く」ことが重要です。馬手肘を矢筋方向へ押し出すように引けば、自然と潰れや流れが抑えられます。さらに、大三から引き始める際に、弓手と馬手が左右均等に開く意識を持つと、正しい軌道を保ちやすくなります。
ポイントをまとめると以下の通りです。
- 手先ではなく肘で引く意識を持つ
- 弓手と馬手を左右均等に開く
- 肘は背中方向ではなく矢筋方向へ導く
- 大三の形を崩さずに引き分ける
このように、腕全体を大きく開くイメージで引くことが、潰れや肘流れの防止に役立ちます。
たぐりすぎるとどうなる?正しい引きの軌道とは

たぐりすぎとは、引き分けの際に馬手を過剰に体へ寄せすぎたり、前腕を内側へ巻き込む動作を指します。たぐる動作は、矢筋の軌道を乱し、正確な離れを妨げる要因となります。
たぐりすぎによって起こる主な問題は以下の通りです。
- 肘の位置が内側に入り、肩線が崩れる
- 手首が折れて力みが発生する
- 離れで矢が左右に暴れる
- 暴発や弦の引っ掛かりが起きやすくなる
特に、初心者は「引こう」とする意識が強すぎて、自然と腕を体に寄せてしまう傾向があります。これがたぐりすぎの大きな原因です。
正しい引きの軌道を保つには、肘を矢筋に沿って後方へ伸ばすことが大切です。体に寄せるのではなく、遠くに引く意識を持つことで、自然と正しい軌道が形成されます。また、引き始めの大三で十分に左右の空間を確保しておくことも重要な準備となります。
適切なたぐり具合の目安は次の通りです。
状態 | 内容 |
---|---|
適正 | 肘が矢筋上にあり、前腕が矢に沿って伸びている |
たぐりすぎ | 前腕が内側に巻き込み、手首が折れる |
たぐりは悪い癖になりやすいため、早い段階で矯正することが上達への近道となります。
弓道での馬手で安定した離れを実現する技術
離れが安定しない原因と改善方法

馬手離れが安定しない原因は、主に引き分けと会までの準備不足にあります。離れは会の結果であり、直前に修正しようとするのではなく、事前の形作りが重要です。
まず多い原因が「伸び合い不足」です。会で十分に左右が均等に押し引きされていないと、離れで馬手だけが先に動きやすくなります。これにより、暴発や引っかかり、矢飛びの乱れが発生します。また、弓手の角見の働きが不足している場合も、馬手が主導になりやすく、安定しません。
改善するためには、会の段階で「左右均等の伸び」をしっかり意識します。弓手は的方向に押し、馬手は矢筋方向に引き続けることで、自然に弦が外れやすくなります。この状態が作れれば、無理に馬手を放そうとしなくても離れは自然に出ます。
さらに、取り懸けの段階で親指を反らせ、中指は軽く添えるだけにすることも重要です。これにより、弦への過剰な圧力を避けられ、離れでのひっかかりも防げます。
ポイントを整理します。
- 伸び合いを十分に行う
- 弓手の角見をしっかり効かせる
- 馬手の取り懸けで力を抜く
- 無理に放さず、自然な離れを目指す
馬手離れの安定は、このような事前準備によって大きく改善されます。
手首が曲がる・親指の向きが悪いと起きる問題
馬手の手首が曲がったり、親指の向きが悪いと、引き分けや離れの安定性が大きく損なわれます。これらは初心者によく見られる基本的なフォームの乱れです。
まず、手首が手背側に曲がると、弦を引く力がまっすぐ伝わらなくなります。その結果、取り懸けが浅くなり、引き分けで手首に無理な負担がかかります。これが続くと、手先に力が入りやすくなり、離れでの暴発や弦のひっかかりが生じやすくなります。
次に、親指の向きが悪いと、弦枕に弦が正しく乗らなくなります。親指が内側を向いていると、弦が弽から外れやすくなるため、矢こぼれや射形の乱れを引き起こします。逆に親指が外を向きすぎると、ひねりが過剰になり、手首に無理な力がかかります。
これらを防ぐには、取り懸け時に手の甲と前腕が一直線になるよう意識し、親指は自然に上を向けます。手首はわずかに屈曲し、必要以上に反らさないことが重要です。また、ひねりは取り懸けの段階で作り、引き分け中に追加で加えないようにします。
まとめると以下の通りです。
不良動作 | 起きる問題 |
---|---|
手首が反る | 弦の力が安定せず暴発しやすい |
親指が内向き | 弦枕から弦が外れやすく矢こぼれ |
親指が外向きすぎる | ひねりすぎによる手首の力み |
このように、馬手の取り懸け姿勢を整えることが安定した射の基本になります。
軌道を整える練習法とフォームチェック

馬手の軌道を整えることは、安定した離れと高い的中率の土台になります。軌道が乱れる原因の多くは、肘の動きと体幹のバランスの崩れにあります。
まず、馬手の軌道とは、引き分けから会に至るまで、馬手肘が矢筋と平行に後方へ動く線を指します。軌道が内側にずれると潰れが生じ、外側に流れると肩が抜け、力みや暴発につながります。これを防ぐには、肘を正しく導く意識が重要です。
練習法としては、以下の方法が有効です。
- 壁沿い引き分け練習
壁に背中を軽くつけ、引き分け動作を行います。肘が壁にぶつからないよう矢筋方向へまっすぐ導く感覚を養えます。 - パートナー補助練習
友人に馬手肘の後方位置を軽く触れてもらい、適切な位置を意識しながら引く方法です。肘の高さと軌道が安定します。 - ゴム弓での反復練習
軽い負荷で繰り返し正しい肘の軌道を体に覚え込ませる練習法です。弓を使わず、安全に感覚を確認できます。
次に、フォームチェックのポイントを整理します。
チェック項目 | 正しい状態 |
---|---|
肘の高さ | 口割りの高さと水平 |
肘の位置 | 背面に流れず矢筋上に位置 |
肘の動き | 常に後方へまっすぐ導かれる |
手首の角度 | 手の甲と前腕が一直線 |
こうして、自分の軌道を客観的に確認しながら練習を積み重ねれば、馬手の安定した引き分けが身についていきます。
弓道での馬手の基本と安定した射法のポイントまとめ
ここまでの内容をまとめると以下となります。
- 勝手は古語で右手全般、馬手は弓道用語で右手を専門的に指す
- 弓手は弓を押し支え、馬手は弦を引く役割を担う
- 馬手のひねりは弦を安定させ矢こぼれを防ぐ
- ひねり不足は弦の不安定化、過剰なひねりは暴発の原因となる
- 取り懸けでは中指を軽く添え親指を反らせるのが基本
- 馬手に力が入る原因は離れの不安や暴発への恐れ
- 肘主導で引くと手先の力みが減り自然な引きができる
- 潰れや肘流れは手先で引こうとする意識が強すぎることで起きる
- 大三から均等に左右を開くと軌道が安定しやすい
- たぐりすぎは前腕を内側に巻き込み軌道が乱れる
- 正しい引きは肘を矢筋上で後方に導く意識が重要
- 馬手離れの安定は伸び合いと弓手の角見が鍵となる
- 無理に離そうとせず自然に弦が抜ける状態を作る
- 手首が曲がると弦の力が伝わらず暴発しやすくなる
- 親指の向きは自然に上を向け、弦枕に正しく乗せる